離島医療を楽しむ 地域包括ケアシステムと健康長寿の「シマ」
ファミリークリニックネリヤ
徳田英弘
地域包括ケアシステムの目指すところは、「重度な要介護状態となっても、住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを、人生の最後まで続ける」ことといえます。また、地域包括ケアシステムの植木鉢モデルの鉢に相当する部分は“すまいとすまい方”となっています。“すまい”を辞書で引くと「住むこと。暮らし。生活。」とされています。つまり、すまいとは、単に場所を意味するものではなく、人としての生活を含むものと言えます。“住み慣れた地域”、“自分らしい暮らし”、“すまい ”などは人それぞれに異なります。これらに共通すること、つまり、「人とのつながりのある居心地のいい場所で暮らしていけること」が地域包括ケアシステムの目指しているものと言えます。
図1 地域包括ケアシステム
図2 地域包括ケアシステムの植木鉢
一方、多死社会への対応が、日本にとって大きな課題になっています。ひとりひとりの人の健康寿命の延伸のために、サルコペニアやフレイルを予防していくことは重要な課題です。そして、フレイルなどを予防する上での三本柱とされているのが、「栄養、身体活動、社会参加」です。社会参加については、職域や趣味の集まりを通したものも重要ですが、地域行事への参加などを通して、そこに集う人々同士の思いやりを持ったつながりや、信頼関係を築いていくことにも大きな意味があります。地域包括ケアシステムの目指す一つの側面と言えるでしょう。
図3 フレイル予防の三本柱
奄美や沖縄で『シマ』という言葉の意味するところは、地理的な島ではなく、地域社会であり、ふるさとでもあります。つまり、『シマ(地域社会)』は健康長寿社会を地域包括ケアシステムの目指す「人と人のつながりのある地域社会」と言えます。“ユイワク”と呼ばれる互助の労働提供はキビ刈りなどでわずかの残ってだけのようです。しかし、「シマの」互助の精神は“結(ゆい)”として、脈々と引き継がれています。“結”の精神を保つこと、養っていくことが、地域の健康寿命の延伸、健やかなシマ作りのために欠かせないことと言えます。奄美群島の健康課題として、若年層の早世が挙げられています。飲酒や肥満などが克服すべき課題とされていますが、結の心あふれるシマ社会の維持、発展も重要な課題に違いありません。
奄美・琉球の世界自然遺産登録は、残念ながら延期となりました。しかし、奄美・琉球には世界に誇る長寿の基盤となる“結”の文化もあります。先人が築いてきた健康長寿の「シマ」の文化を守り、発展させていくことが、離島医療の楽しみでもあり、地域包括ケアシステムの目指すものそのものといっても過言ではないでしょう。
離島医療塾の活動を通して、健康長寿のシマづくりに賛同される方、参加される方が少しでも増えることを願っています。